2017年12月31日日曜日

ゆく年くる年 2017

2017年の大晦日。
いつも猛吹雪の峩々は珍しく音もなく時より月が顔を出す静寂に包まれています。
お客様への年越し蕎麦を出し終わり、1年を振り返るこの時間が何よりの幸せです。

長男が保育園に通うようになり、仕事に加えて子育てが違った自分を発見できた1年だったと思います。
すくすくと大きく成長する姿をただただ喜べれば良いのですが、峩々温泉の後継者として、1人の人間として向き合う緊張感が常に存在しています。
それは私にとりましても、彼にとっても大変有意義な時間なんだと改めて思います。
妻の頑張り、母の優しさ、弟夫婦のサポート、古参従業員の家族以上の愛。本当にありがたく、心から感謝しています。
8月に父を亡くし、経営者として身の引き締まる思いで過ごしてきましたが、ようやく自分の峩々温泉になっていくために走り始めた気がしています。
経営の目的は「永続」と言い続けてきましたが、父の死をもって改めてその意味を噛み締めています。
生前にお世話になった方々へお一人お一人にご挨拶をさせて頂きながら、私は少しづつ六代目になっていくのだと実感しました。
親を送り初めて一人前にならせて頂くのだと誰かが言いました。
その本質が、父の生き様が、父の死が最後に私を後継者に育て上げたのだと思います。
本当ならば大晦日は家族で父の生前の思い出話をしながら、新年を静かに迎えるのが習わしだと思います。しかしながら我々は旅館をなりわいに生きていく人間です。
訪れる旅人がいる限り、その皆さんの思いを自らのロマンにかえていく。それを喜びにかえ、湯を守り続けていく宿命なのだと思っています。
これからも峩々で暮らし、しっかりと後継者を育てていきたいと考えております。

【ラジオ番組】
7月から半年間、ラジオ番組を持たせて頂きました。
とにかく新鮮で楽しかった。何もわからず体当たりしました。
自分の考えていることを言葉で発信することの面白さ、難しさを体感しました。
伝えたかった事の半分も言えませんでしたが、それが今の自分のレベルなのだと再確認する良い時間でした。
スタジオでの収録はいい刺激になり、ゲストで出演して下さった方々とも親睦が深まり、良いこと尽くめだったと思います。

【地域への貢献】
わが町はイノシシなどによる田畑への被害が深刻化しています。
今年から本格的に地元猟友会の有害鳥獣捕獲隊として活動してきました。
農業家の高齢化、耕作放棄地の拡大、収穫高の激減。大きな問題を抱えています。
地元食材を提供する事ができなくなる。という問題に直面し、地元の有志でイベントをしたりNPO法人を立ち上げたり10年以上にわたり活動を続けてきました。
この度の活動もその延長線上にあります。
誰かがやってくれるだろうでは済まないレベルになろうとしています。
私は旅館を運営するかたわら、この活動をライフワークにしようと思っています。
有害鳥獣として駆除された野生動物を、もっと活かす方法を模索しています。
そしてそのおかげで守られた農作物をどんどん世に出していきたい。
双方を両立させた事業展開を考え、町づくりの下支えになりたいと考えています。
50歳になるまでに何とか形にしていくのが、今の目標です。
具体的なプランがお知らせできるように頑張りたいです。

【本を出版したい】
後継者を持つ経営者に向けた育児書を書きたいと思っています。
ビジネス書ではなく、エッセイでもなく、育児書です。
私は六代目として生まれ、現在は七代目を育てています。
自身の足跡と共に、環境や教育や人との出会い、気付きや学びを後継者に伝える本を出版したいと考えています。
それを書き始めようと思います。
旅館業界では後継者育成と称し、的外れな勉強会や研修会を企画しています。
目的が後継者を育てることだから的が外れるのだと思います。そして我々のような小規模旅館は業態、家族構成などによって独特の経営スタイルをもちますので、あくまでもその育ってきた環境が重要になります。
旅館の永続が目的で、その運営責任者になることは歴史の通過点なのです。
峩々温泉は永遠ですが、父のように館主はあっけなくこの世を去ります。
もっともっと深くこの仕事を掘り下げるために、きちんと文章にして残したくなったのです。
子供が成長するにつれてその思いが大きくなりました。
定年が無いこの商売ですが、選手生命は短いのだと知りました。
長い下積み生活がようやく終わり、自分の船を来年からやっと漕ぎ出せるのです。

【旧友との再開】
大学を卒業し、しばらく音信不通だった友人から連絡がありました。
家族を連れてはるばるアメリカから一時帰国する折、宿泊してくれました。
活躍の場をロサンゼルスにして約20年。彼はがむしゃらに走り続けてきました。
話は尽きること無く、将来の夢を語り合いました。
ある程度の社会的な信頼とキャリアを身に着けた彼は、安住の地を求めることはありませんでした。
保証されたポストを捨てて、また新たな夢へ前進すると。
私はここ数年、こんなにキラキラした気持ちになった事はありませんでした。
旅館の経営に没頭し、人生について考える時間はあまりなかったと思います。
自らのライフワークをしっかりと考えて、また新しいチャレンジをしていきたいと思います。
夢は必ずかなう。叶えたいと思う自分がいる限り。そう彼は言い残して日本をたちました。
来年は彼に会いに行こうと思います。自らの新しい人生を踏み出すために。


今年も色々な事がありましたが、何とか無事に終われそうです。
あと数十分で新年がスタートします。
健やかな元旦を迎え、本当に良い年になりますようご祈念申し上げます。