今年最後のチェックインを無事に終えて、ホッと一息ついています。
昨年同様、ゆっくりと雪が音もなく降り続いています。でも、去年とはその景色を違った感覚で眺めている自分がいました。
1年前は本当に諦めと絶望の縁に立ち、その雪を風を川の音を目に映るすべてを恨み、その年を振り返ることそのものに無念さを感じていました。
誰にも共感される事もなく、ただただ孤独でとにかく明日のことは明日になったら考えようという心もちでいたように記憶しています。
何よりもごく当たり前の事が「本当にちゃんとできるのだろうか?」という毎日を約2年間続けてきたように思います。それは未だ変わるものではありません。
いつものお客様がいつも通りに来て下さる。大晦日から正月三が日までご滞在の皆さんとお正月を楽しむ。1月10日に疲れが出てきて必ず風邪をひく。
今思えばそうやってずっと同じようにやってこれた事に感謝です。
去年はそうはいきませんでした。だから今年からやり方をかえました。
どんな事があっても変えない!という考え方を変えたのです。
外的な環境変化で辞めざるを得ない事があればショックを感じると思いますが、長く続けなければならないものを勘違いする事そのものがストレスなのだと思います。
本質を見いだせないまま長く続けてきた事に意味はありません。積み重ねて来たものとただ慣れているくらいの違いがあると思います。代々受け継がれている慣習などに良くあります。永続するものには必ず哲学と実行するための技術力があります。
哲学だけでもダメ。技術力だけでもダメです。時代の変化に対応できる精神力や自らの変化を楽しめる伸びしろを実感できた1年であったと思います。
「哲学への道」
私達の先祖がこの地に辿り着き、宿を構えるまでの葛藤。長い歴史の中で培われてきた生き抜く知恵と力。山への信仰心。家族との別れ。繁栄と衰退の時代。考えればきりがなく、どんな困難にも耐えてこの宿を守り抜いてきました。
哲学なくして何かに耐える事は決してできません。
この地で脈々と受け継がれる主としての重圧。面白おかしくやっているわけがありません。
思いつきではじめた商売でもない、ビジネスの勝者になろうとしているわけでもありません。
私の前にも後ろにも峩々温泉があるという事実のみなのです。
もっと言えば私よりもむしろ峩々という地を知る旅人の皆さんと山の営みを共有したいと考えます。
全てのお客様が蔵王への尊敬心、温泉宿がそこに存在している事そのものに心から感謝の気持ちをもって訪れる。湯を守り、旅人を迎える者に最大限の敬意をはらう。
私達はそんな旅人のかけがえの無い時間を特別なものにしたいと願う。
心静かに穏やかでゆっくりとした時間を心からありがたいと喜び合う。そういう場所なのです。
自分がああしたいこうしたいとするのは経営者の自由です。自由だが何も生まない。時間の浪費とも知らずサービスとの等価交換で金を手にすることができます。しかしながらその逆で、自らのこだわりや無意味な慣習を捨てる事で本質が見えてきます。
自己満足でしかない宿主のこだわりを、わからない人に押し付ける事は容易なことです。またそれをお金と時間を使ってありがたがる人達も大勢います。コロナ渦においてもなおです。
この思いをしてもなお、また元の生活に戻りたいと思う。戦後の教育がそうさせたのかは定かではありませんが、近年人間は精神的に弱体化している事は確かなようです。
そう思えば思うほど、この山懐でどっしりと旅人を待ち続けることのできる人間になりたいと切に思います。
「求めず、辞せず」
誰しも地位や名誉は欲しくて欲しくてしょうがない。私はそのような欲はありませんと言っても嘘だと思います。そのポストに付けば様々な恩恵が受けられる。あなたはどうですかと言われたら思わず手を上げたくなるものです。またその逆もしかりです。
辞めない事はとても難しい。では、いったい何のためにという事になります。
それは他でもなく誰かのためなのだと思います。
「家族を守るために一生懸命働いています。」よく聞く働くお父さんのフレーズです。周りを見渡せばそんなお父さんばかりなのに、一向に世の中が良くならない。それはなぜなのだろうか。
モヤモヤとした思いが残るのは、何かにしがみつこうとしている人とその嘘で塗り固められた面の皮をはごうとしている人ばかりをテレビやネットで見せられているからなのかもしれません。テレビは特に面白くありませんね。
求めず、辞せず、私は潔い生き方ができるだろうか。
「第二創業期がいよいよやってきます」
東日本大震災や蔵王噴火騒動、そして新型コロナウィルス襲来を経て迎える「理念の革新」。
まさに第二創業期に向けて進みださなければならないと確信しています。
私が峩々温泉に戻り、早いもので20年。時間を掛けて先代の負の遺産を整理整頓してきました。ようやくゴールが見えてきました。最終章を経て峩々温泉は再び創業します。あと2年ほどはかかりますが、先が見える分ワクワクと安心感が半分半分です。
この年月を掛けて知らず知らずに身に着けられたものがどれだけあるのか。あと少し、自らの成長を目の当たりにできるうれしい時間になれば幸いです。
来年は本を沢山読む。旅をする。もっともっと人を見送る。
そんな1年にします。
本年も本当にお世話になり、ありがとうございました。
また来年、元気でお会いしましょう!