2015年12月31日木曜日

ゆく年くる年 2015


本日は大晦日。明日はぜひ峩々温泉神社に初詣して頂きたいと思い、息子と境内を除雪してまいりました。すっきりとしたいい気持ちで新年を迎えられそうです。
それも何もご来館して頂いているお客様があってこそです。
来年も沢山の夢やロマンをこの峩々温泉で語り合いたいですね。

先ほど最後のチェックインのお客様をお迎えして、知人が子供を連れて年末のご挨拶に来てくれ、ようやく今日が大晦日なんだと実感する。
毎年決まってそうなんですが、この日が暮れる時間帯に数十分ですがひとりになれるんです。そんな時にふと今年一年を振り返りながら過ごしております。

今年は何と言っても蔵王山の噴火警戒警報に伴う風評被害に一喜一憂する年でした。
昨年の10月くらいから専門家やマスコミが騒ぎ出して、警戒レベルが上がったので山頂付近の道路を封鎖されました。

雪がとけて、蔵王エコーラインがオープンする。ゴールデンウイークには山桜が満開になる。その翌週から新緑が始まり、胸躍るグリーンシーズンがスタートするのです。
観光客はまだ肌寒い山頂を目指し、蔵王のシンボルである「御釜」をひと目見ようと足を運ぶ。あまりの美しさに綺麗なエメラルドグリーンの湖面に、何ともいえない思いを描く。これが本来の蔵王の姿でした。今年は7月まで閉鎖されたおりましたので、完全にスタートで躓いた感じでした。

日本中の火山が噴火を繰り返し、今まで何の対応もしてこなかった蔵王「御釜」への注目が集まりました。にわかに火山性地震の計測器などと設置しました。土石流を監視するカメラを川沿いに設置しました。峩々温泉の敷地内に防災無線の受信アンテナとスピーカーを設置する計画が持ち上がりもしました。
新聞発表にもなりましたが、私がこのアンテナの設置に反対したのは単に「秘湯の景観を損なうから」ではありません。もちろん建物の目の前に10mものアンテナを建てられるのは、旅人にとって見たい景色ではありません。そして、周辺には私ども一軒しか旅館が無いのに屋外用のスピーカーを設置する必要性がない。そういう理由が新聞に書かれなかったことは本当に心外でありますし、もう少し深く取材して頂きたかったと残念な思いです。
そしてもう一つ、数千万の予算をつぎ込んで無線機を設置するよりもまず先に沢山の施策を考え実行する必要があるのだと思っています。
例えば携帯電話。現在、各キャリア全ての電波状況が悪くまともに館内で会話はできないです。もしそれができないとしても衛星電話という手もあります。衛星電話を町が所有し、当館に設置すれば良いという考えもあります。
町役場から冬なら40分以上かかるような立地ですから、いずれにしても対応するのは私もしくは当館のスタッフになります。いち早く伝達する情報。その情報のレベルによって行うべき最善の対応策。それをまず決めるのが先なのではないだろうか。大掛かりなインフラの整備はその後でも良いと思います。AED等の設備を貸与するなどの現場方策もあるはずです。

今まで何もやってこなかったからといって、それは誰も悪いとは言えません。誰かに責任を取らさせようと言っているのではなく、旅人や観光施設に従事している人間の意見を聞いて欲しいのです。
対応の仕方をひとつひとつ考えてみますと、何もやってこなかった事を誰かに指摘されてやらされている。という感がとてもあります。責任を逃れるために必死でインフラを整備しているように思えてしまう。
コミュニケーションの決定的な欠如と全国の事例を知らない勉強不足にほかなりません。
住民の意見を聞く。経験者の意見を聞く。観光のあり方を議論する。議論したことをアウトプットする。そういう好循環を作っていきたいですね。ひとりでは何もできません。だからなおさら頑張りたいと思います。

この風評被害にいち早く国や県が動き、「ふるさと割」がスタートしましたね。
大好評でしたし、今後も継続して行われるサービスだと聞いております。
新規顧客の獲得にも一役かいました。お得意様にも大変喜ばれました。
予約の件数も多かったですが、キャンセルの件数も多かったと記憶しております。
Webサイトでの予約管理は時間帯にとらわれず、お客様がカタログをめくりながら商品を選ぶように宿を選択するところが気軽で良いのでしょう。
予約の手軽さに比例してキャンセルに対しても軽い。それが私の感覚です。
海外の予約サイトなどではクレジットカードの番号の入力や、キャンセルも10日前から掛かるのが一般的です。
私どものやり方と言うと、見ず知らずの人から掛かってきた電話を100%信用して、客室を用意し、食事を用意し、まだお金ももらっていない人に一晩全力でおもてなしを行う商売です。それはなぜか?
我々日本人は「性善説」の中で生まれ育ったからです。世の中に悪い人はいない。という考えがベースになっているから、見ず知らずの人から電話一本で何万円もする宿泊代金の予約を受けられるのです。
私が小学生の頃と言いますと30年前の話です。宿泊予定日が目前に迫ったあるお客様から電話があり「私は集落の葬儀の手伝いをしなければならなくなったから、友達を代わりにやりますよ。お金が事前に少し多く振り込むから、良いお酒を出してやって下さい。お釣りは神社のお賽銭にして下さい。よろしく」と。
間違っても「何日前からキャンセル料がかかりますか?」などという質問は絶対になかった時代です。様々な旅館に予約をしてキャンセル料金のかからない日まで調整して、第一希望がとれたら第二希望以下をキャンセルするような自分勝手な方はいませんでした。
しかしながらそれもルールの中で行われている行為なので、自分勝手ではあってもルールは守られているから良しとされています。
紳士的なお客様に恵まれた旅館は性善説で営業できます。宿側も泊まる側も紳士的かつ人間的なお付き合いが未来永劫つながっていくことでしょう。私はそんな祖父母達のやりとりを見て、肌で感じながら育ってきました。

温泉業界も決して良いとは言えません。先日もある業界の総会に行ってきました。
全国から集ってお互いの無事や近況を、酒を酌み交わしながら夜遅くまで話しをしたりと、みな楽しみな一年に一度のお祭のような催しです。
総会と一言で言っても、大手のエージェントによる数百人規模のものから数十人で行うアットホームなものもあります。この総会は前者と後者の中間くらいの規模で行われたものでした。
総会の最中、ある旅館の主が突然手を上げて役員の勝手な採決だと不満をぶちまけました。その時は様々な関係業界から来賓がいらしていて、私は何かとても恥ずかしい気持ちになりました。人様に恥をさらしただけの行為を行い、その内容は今どうこうできるような事ではありませんでした。質問のやりっぱなし、仮説もなく、先輩への敬意もなく、ただ言い放っただけの言葉。自分の事しか考えていないクレーマーのような内容でした。
そしてその者は、その総会のあと役員の誰とも話さずに去って行きました。自分の意見を通そうと考え、それが業界発展の意味を持ち、かつ自館のお客様が最も喜ぶことであればとことん議論して答えを見出せば良いと思います。
やれうちの旅館は小さいから大変だ。先代からこの会に世話になっているが、こんな事は聞いたことが無いだとか。それじゃうちの旅館は経営できないだの、自分の事だけ。

今だけ、自分だけ、お金だけ。

前職の船井総合研究所 会長 故 船井幸雄氏が「今にこうなる」とおっしゃってました。
そしてできるだけそういう人間とは付き合うな。自分の大切にしているものを失う。
相手のことを思いやれる師と仲間を作りなさい。作れない人に気付かせなさい。と教えられました。まさに今、この時を迎えているのだと思います。

世の中に悪い人はいない。お互いに助けあっていきる。人の縁が輪になって、人にした善行が回り回って家族に返ってくる。そう信じて全ての意思決定を行っています。
しかしながら、心のない公の対応やマスコミ、温泉業界、そしてお客様に対してもその性善説を捨てざるを得ない時が、今まさにそこまで来ています。

でもそれではあまりにも寂しすぎる。
コミュニケーション力があまりにもチープすぎる。
絶対にそれでは世の中は良くならない。美しい日本語で優しい言葉を話し合う国民性を取り戻さなければならない。
でもどうやったら良いかわからない。
みんな思っていると思います。
私はくじけてもくじけてもあきらめない。
今だけ良ければOK!自分だけ助かれば、責任を逃れればOK!人を差し置いてでもお金だけ稼げればそれでOK!と、心のない言動にさらされる事はしばしばあります。しかし、私の経営の目的は全くその対極にあります。



蔵王を愛してこの場所に移り住み、もう六代にもなります。初代から変わらず湧き出る大地からの恵み。この温泉がこんこんと湧き、旅人を迎え続けるている。
我々、それを守り続けることを使命として生まれた者は永続を目的としてこれからも一生懸命日々ここに根をはり暮らしていく思いです。
心を育み、枯れ果てた魂に湧く泉の如き温泉宿でいつづけたいと思います。

息子は感じてくれるでしょう。小さな事をコツコツと積み上げ、旅人を待ち続けていく楽しさを。山とともに歩み、自分の成長する姿を自ら喜べる環境を。大切な人に思いを馳せるロマンを。

本当にありがとうございました。本年中は沢山ご厚情を賜りますます頑張ってまいる所存でございます。今後ともよろしくお願い申し上げますとともに、皆様のご来館を楽しみにお待ち申し上げております。

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